謝罪と援助の「日中友好」が再スタート?
風邪がなかなか回復しない。おまけに締め切りが集中していて、とてもクリスマス前夜のはなやかさなどどこにもありません。今年の風邪はきつい。起床しては原稿を書き、疲れるとふたたび寝るという悲惨な毎日がつづきます。
福田首相の中国訪問が27日からと決まりました。直前に発生した「日中ハイレベル経済対話」で合意・発表された文書の一部を中国側が一方的に削除した問題はなにごとも穏便を旨とする福田内閣では特に問題にはならなかったようです。高村外相もいたって物分りがよく、苦笑するばかりです。なぜか新聞もテレビも彼がチャイナロビー「日中友好議連」の会長ポストについている事実には触れようとしていません。以前取材した高村事務所の対応は実に愚劣で、女性秘書は取材にひたすら逃げ回るばかり。なるほど会長ポストとはいまどき必ずしも名誉職ではないのだな、と妙に納得したものでした。なぜ国民の税金で訪中し、人民日報にも「日中友好議連会長」の肩書きで紹介される高村外相の秘書は取材に応じないのか。それは内閣府の先日の世論調査にもあるように、国民の70%ちかくが中国に対して不信感情をいだいているからにほかなりません。
年内の訪問は中国サイドが強く希望し、これに日本側が応えたかたちです。最終的に12月ぎりぎりでスケジュールが決定したのは二階俊博総務会長の北京における中国首脳との話しあいの結果です。同時に懸案の東シナ海の海底ガス開発紛争についても、ついに落しどころは見つからなかったようです。何の対抗カードも用意せず、お願いだけをしているのですから、中国サイドが応じるわけがない。当たり前でしょう。
こうなるともう福田訪中は朝貢外交以外ではない。公文書削除にも東シナ海の不法採掘にも抗議しない。しかも来年3月に実施される台湾の国連加盟に関する国民投票にも反対を強く約束するはずです。
こうして首相を筆頭にして、与党である自民党・公明党と最大野党の民主党が競い合って朝貢し、それに社民党と共産党がエールを送るという馬鹿丸出し外交が続きます。
訪問地に天津が上げられているように、胡現政権は江沢民が上海をそうしたように、自分たちの既得権益のための開発地域にせんと、日本からの投資と援助を執拗に要請してくるはずです。その演出のための天津訪問なのです。加えて、首相の口から中国の環境と省エネ対策へ公的な経済支援も確約される可能性も高い。
胡錦涛たちは福田総理を訪問させることを通じて、日中関係を小泉、安倍の二大政権以前に戻そうとしています。中国のメディアが小泉政権当時の日中関係を「暗黒の時代」と呼んでいることは何度も書いてきましたが、それだけに福田訪問で「日中新時代」を演出したい。そのためには中国国民が容易にわかるような政治的なメッセージとセレモニーが必要とされるのです。それは日本側があらためて「歴史認識」を再確認し、過去を反省し、靖国神社公式参拝を明確に否定することです。さらにそれらを実効性あるものにするためには、福田総理が中国国内最大の反日記念館である北京の抗日記念館など「日本軍国主義の罪科」のシンボルを訪問し、「不戦」と「日中友好」を「表態」(行動で示す)する以外にないでしょう。また「友好」はただではありません。「援助」再開もまた欠かせないものです。具体的には08年に終了したODAに替わる「第二のODA」が不可欠となるはずです。そもそも中国が言う「日中友好」とはなにか。中国共産党に敗北した「侵略国」日本がその罪科を永遠に謝罪し続け、中国国民の排外的なルサンチマンを満足させ、それを通じて、日本の政治的軍事的台頭を牽制することなのです。また「戦勝国」中国は日本から賠償金をうけとる権利があり、それを中国ではなく日本の側から申し入れさせることも欠かせない。これが日本の贖罪意識を徹底的に利用した北京の側から見た「日中友好」の実態なのです。彼らに日中共同声明で周恩来が賠償金を放棄した事実を何度話しても、なにもかわらない。近代的な市民革命の歴史をもたない中国国民の夜郎自大ぶりは際立っています。
贖罪と援助。このふたつを福田総理が具体的にあらわして始めて、中国がいう「暗黒の小泉時代」が名実ともに終わるわけです。逆に日本人の側から言えば屈辱と絶望の「日中友好」がまたまた再スタートするというわけです。しかし、日本がどれほど今後も中国を支援したところで、彼らが日本に感謝することはありえない。日本の援助は緒戦は賠償金なのです。指導者が下手に感謝などすれば漢奸(売国奴)として彼らは失脚するでしょう。周恩来ですら対日外交ではそうした非難の声が一般的なのです。
総理の中国訪問について、注意してほしいのは新聞テレビの報道です。訪問中の記事の大部分は外報部ではなく、政治部の記者が書きます。彼らは政局に関心はあっても日中関係や中国の実情に詳しいわけではありません。そのためソースは外務省や首相周辺など「訪問成功」の声にミスリードされ、記事にも自信がないため各社横並びになりがちです。記者クラブ制度が招いた記者の取材と分析能力の低下は目を覆うばかりで、安倍訪中の際にも「首相が靖国神社参拝について言明しなかったため、訪中が成功した」なる「解説」が飛び交いました。大笑いです。事実はそうではない。中国の側が尻に火がついたのです。反日デモのせいで、日本からの投資は翌年06年度は30%も激減、減少傾向にはいまも歯止めがかかっていません(今年もほぼ同じで30%台)。
民間の投資が減っただけではない。当てにしていた日本のODAも08年度で中止が決まった。そのため、11次5ヵ年計画(2001−2005年)の予算にも影響が及び始めていたのです。そもそも日本のODAは当初は5ヵ年一括で供与されてきました。理由は中国の5カ年計画に合わせていたからなのです。つまり中国政府は予算を組む場合、最初から日本の援助をカウントして長中期の経済計画を練っていたのです。そのODAがストップした。これには中国政府内部でも危機感が高まった。1年で平均2000億円規模のカネがコンスタントに入っていたのです。中国国内でもジャパンマネーに群がる特定勢力がうまれ、彼らがこの30年間に築いた巨大なODA権益は膨大なものになっていたのです。
政府内部でも、日本の援助中止に、商務部(対外援助の窓口)は動揺し、反日デモにも内心では大ブーイング、彼らのなかにはこうはき捨てる人もいたのです「あのデモ隊の馬鹿どもが!」
安倍訪中の二ヶ月前、北京で「外事工作会議」が開催されました。ここで胡錦涛主席が演説し、対日関係を改善し、中国経済への協力と支援を活発化させ、今後も日本から一層の資金と技術を手に入れる方針が確認されました。会議の要約は人民日報に掲載されています。この記事を中国語で読めとまでは言いませんが、外信部をつうじても翻訳文くらいは手に入るはずです。しかし、安倍訪中について論じた各紙の記事にはそうした中国サイドの事情を深く読み込んだ複合的な記事は見当たらず、ひたすら日本側が靖国神社参拝を中断したことだけが関係改善の理由であるかのように、特筆大書されていました。これでは欠陥報道を批判されても止むを得ません。プロなら最低限、本物の商品を売るべく努力すべきではないのでしょうか。
追加
福田総理の訪問にも関連しますが、中国はかなりやばい状態に陥りつつあります。昨今の経済指数、首脳の発言、メディアの報道など、まるで89年の天安門事件前夜を思わせるほどです。物音はまだかすかにしか聞こえてきませんが、いずれなにかが起こるでしょう。
推薦本
核を売り捌いた男(ゴードン・コレーラ・ビジネス社)
北朝鮮の核開発をひそかに支援した人物といえばパキスタンのドクター・カーン。彼を中心に、中国、北朝鮮、イラン、リビアと拡大し続ける核の闇市場の実態とこれを追求するCIAやMI6の知られざる活動を紹介したもので、筆者はBBCの現役記者である。
これを読むだけで、良し悪しは別にして冷戦終了後、世界各国が国家の生存をかけて、核保有に全力を注いでいる現実がよくわかる。対して、わが国はどうか。
中国の核も北の核開発もどこかよその国のお話である。
リアリズムなき国民はリアリズムによって報復される。この本を読めばいやでもそんな感想をもつ。
ビジネス社 (2007/11/13)
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