中朝関係の真実
草思社が民事再生法の適用を申請し、事実上倒産しました。私は同社から本を出したことはないのですが、PR誌だった『草思』には何回か寄稿を求められて、原稿を掲載させていただいたことがあります。加瀬前会長というカリスマ的な編集者の不在は大きかったようです。しかも同社の得意なノンフィクションは経費がかかるばかりで、採算の取れにくいジャンルです。売れているときはいいのですが、ヒットが出ないと辛い。それが経営悪化につながった結果の倒産です。拉致問題関連のすぐれた本も何冊も出していました。ノンフィクションのひとつの時代の終わりを実感しています。
また8日午前には講談社の鈴木智之・広報室長が喉頭がんで亡くなりました。昨年暮から入院し、面会者も最小限にしての闘病生活だったようです。前日までは比較的落ち着いていたものの、早朝に容態が急変した結果とか。
私の『田中角栄と毛沢東』は事実上、彼が世に出してくれた本でした。同世代の知人だっただけに、胸にぽっかり穴の開いたような喪失感があります。なんとも名状しがたい想いのなかにいます。いずれ私も彼の元に行く。それまでは鈴木ちゃんの好きだった言葉『雑誌ジャーナリズムの誇り』を心に刻んで、仕事をしていきたいと思っています。
「中朝関係の真実」
金正日のアメリカに対する露骨なプロポーズが聞こえてくる。きっかけはブッシュ大統領への信書の中で彼が『韓国以上の親米国家になりたい』と伝えたことだ。北朝鮮の遠交近攻外交が幕をあけた。北はワシントンの力を借りて、北京を牽制しようとし始めている。韓国との南北首脳会談で朝鮮戦争の休戦協定は北と韓国と米国の3カ国で行いたいと発言したのも同様な理由からである。目的は中国外しにある。
金正日がなぜそうするのかといえば、理由はいたって簡単で、日本の『経済制裁に効果がない』のではなく、大いに効いているからなのだ。
田原総一郎ら『識者」はいう。『中国と韓国が援助しているので、日本の経済制裁には効果がない』と。無邪気な『分析』である。韓国も中国も善意のサンタクロースではない。北支援は国益の確保を大前提にしている。
韓国はドイツ統一を目にして、祖国の統一を捨てた。自分たちの生活レベルが低下せざるを得ないからだ。言葉で語る統一はタダだが、カネのかかる現実の統一は御免被りたい。韓国の本音である。彼らは太陽政策と称して、北の政権当事者を経済的に支援することで、あの醜悪な政権を延命させ、急激な統一のコストを支払うことから逃亡したのである。それはいわば貧乏な肉親を引き取って生活の面倒をみるのではなく、たかりにくる彼らにそのつどわずかなカネを与えて追い払っているのとなにも変わらない。これが韓国のいう「援助」の正体である。
では中国はどうか。援助という名目で、北朝鮮を東北地域経済の下部構造に組み込むことが狙いである。『地球市民』気分の日本人はODAをなにか抽象的な、美しい施しのようにしか考えていない。そのせいで、いつの間にか援助がそもそも外交の道具であるというリアリズム感すら喪失している。事実はそれほど美しいものではない。
中国は援助の美名の下に、2005年から露骨な経済的覇権の追求を開始している。まず陸上と海底に眠る埋蔵資源の収奪だ。
経済『協力』と名はついているが、実態は北には、地下資源と労働力しか提供できるものはない。経済はとっくに破綻して久しいのである。他方、肝心の『協力』開発資金と技術力は100%、中国が提供する。そして中国から渡される採掘権料は北の核心階層の懐に流れる仕組みなのである。このどこが『援助』の名に値するものなのか。
中国のターゲットは茂山鉄鉱山など最大の埋蔵資源地域に集中している。昨年秋、北朝鮮最大の銅山もまた中国の手に落ちた。買収した中国企業にはブッシュ大統領ファミリーが深い関係をもっている。優良で規模の大きなところがターゲットになっているのである。
中国の資源あさりが活発化しているのは北朝鮮が日本や米国と正常化して、海外からマネーが流入し、北朝鮮の唯一の売り物である『資源』開発に乗り出す前に、おいしいところを先に押さえておきたいからだ。いまや中国のアジアにおける対外投資国は香港を除けば、北朝鮮がNO1である。資源の次は労働力、つまりマンパワーである。北朝鮮の労働者を中国の東北開発に『活用』したいという意向はすでに中国地元関係者から日本企業に対して内々に打診されている。賃金は1日1ドルである。それでも「いくらでも人は集まる」と彼らは胸を張る。金正日と労働党は自国の資源と国民を叩きうることで、生き残りを図ろうとしている。これが『経済協力』『経済支援』の実態である。
事実を確認すれば、金正日の対米ラブコールの意味が誰にでも理解できる。あれは北京の影響力の拡大に対する悲鳴であり、西側の軍事関係者のなかにある中国警戒論に便乗したすりよりなのである。
ある在日関係者ですらこう話す「祖国は完全に中国の経済植民地に変貌しました。金日成主席の時代ならここまで露骨な中国の浸透を許さなかったはずです。
いまはチュチェ(自主)はどこにもない」。
経済的従属は確実に政治的従属につながる。だから金日成は中ソのバランスを取りながら援助を手にしてきたのである。
朝鮮戦争で40万人の義勇軍を失った中国が北を放棄することはありえない。
毛はなぜ出兵したのか。彼の『遊撃戦争論』(中公文庫)を一読すればよくわかる。『小さな犠牲を払うことで大きな安全を確保する』。
米国と直接軍事対決することで、米軍にも犠牲を払わせ、二度と中国の周辺にコミットさせない。朝鮮に続いてベトナムでも米軍は敗れた。もう彼らが朝鮮半島に帰ってくることはないだろう。
膨張中国の引力に急速に引き寄せられつつある「自主の国」朝鮮。
だからこそ、日本政府は中朝間に生まれた不和と矛盾を最大限利用すべきである。「このまま中国の植民地になって、金日成主席が提唱していた自主自立の遺訓を捨て去るのか、それともすべての拉致日本人を全員解放して、日本と国交を正常化し、経済支援で祖国の再建を果たすのか。後者以外に朝鮮の未来はない」と、繰り返し公式非公式にメッセージを送ることが必要だ。
ポスト金時代には確実に路線の転換が不可欠となる。だからこそ、北朝鮮内部に高まる対中警戒感に注目すべきだろう。ジャパンマネーなしに北の再生など夢物語なのだから。かって中国と朝鮮の朝貢体制がどのようなものであったのか。それを知りたい方は「朝鮮事情」(ダレ)をお読みいただきたい。なかでも第二章は重要である。
追加
米朝接近をうけて、さまざまな珍論暴論が噴出してきました。ジャーナリストの看板を掲げているのなら。この情報戦に無関心であってはならない、受けて立つべきです。彼らの正体は単なる機会主義者と利権屋にすぎない。その事実認識のおそまつさを炙り出していかなければなりません。日本文化チャンネル桜の水島社長が年頭に「もはや組織や団体に幻想をもつべきではない。志をもったひとりひとりが立ち上がるしかない」と語っておられますが、同感です。
草思社 (2007/12/20)
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