宮本常一を読む

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忙中閑あり。

昨年秋から吉村昭さんの小説をかたっぱしから乱読していたのですが、ほぼ読み終えたので、今は民俗学者の宮本常一さんの作品に集中しています。
私の読書スタイルはこれは、と思った学者や作家、歴史家、思想家の著作を可能な限りリストアップして、アマゾンに注文、そこにないものは神奈川県の中央図書館に貸し出しを依頼します。
そうして届いた書籍を山のように積んでいるだけで、ワクワクしてくるのです。

で、宮本常一さんです。久しぶりにノートをとりながら、読み始め、すでに10冊読み終えたところです。宮本さんはそれこそ、「知の巨人」でありながら、これまで一部でしか高い評価を受けてこられなかった在野の民俗学者ですが、佐野眞一さんが「旅する巨人・宮本常一と渋沢敬三」(文春文庫)で、彼の生涯を深い敬意を込めながら、驚くべき執拗さで丹念にレポートし、それが大宅ノンフィクション賞を受賞したことから再注目されるようになりました。

ちょうど30歳になったころ、評論家の呉智英さんの宮本氏が事実上責任発行した「日本残酷物語」(平凡社・全5巻)を高く評価する記事を読んでから、この本を近所の図書館で借りてきて、一気に読了した覚えがあります。読後感は強烈で、「人権」「平等」「民主主義」なるお題目の薄っぺらさをしみじみと感じたものでした。
そうした血の通わない言葉の硬直化と形骸化は近年さらにひどくなっているようです。
同時にまた私たちが現在常識として受け入れているものが歴史をさかのぼれば必ずしもそうではなかったという当たり前の事実を再確認することが出来たのです。歴史を学ぶこととは、こういう相対的な視点を豊富化させるということではないのでしょうか。

(1)女の民俗誌(岩波現代文庫・1000円+税)

女性が抑圧されていたと言われる戦前だが、西日本においては女系主義が普通で、東日本の男系とは際立った対照性を見せているという論考は興味深い。
島根県の私の家族・親戚・地域の人間関係を見ても納得できる指摘である。
しかしこれを読むと女は本当に強いな、というのが実感。
なんと言うか、たとえてみれば女はグレーシー柔術のようなもので、男が押さえ込んだと思っていても、実は下から三角締めが決まっていたというような、そんな感じ。「女性塾」結構でございました(笑)


(2)忘れられた日本人(岩波文庫)

宮本氏の書き残した文献のなかで最も有名な「土佐源氏」がおさめられている。彼の生涯を敬意と共感を込めてレポートしたノンフィクション作家の佐野眞一さんの前出の「旅する巨人・宮本常一と渋沢敬三」にれば、必ずしも全てが事実ではなかったようだ。

しかし、仮にそれが事実であろうがなかろうが、土佐の梼原村の乞食小屋に住むひとりの老人(彼が「土佐源氏」と呼ばれた人物である)の回想と語り口からは「民衆」の原像といったものが伝わってくる。宮本さん、すごいわ。もう言葉もありません。
(ここのところは高田伸彦の「ヒョードル、強いわ!」という例の調子でお願いします)


(3)日本の村・海をひらいた人々(ちくま文庫・680円+税)

豊穣な海の世界に生きた漁民たちの生の記録である。なかでも「クジラとり」は必読である。日本人がいかに鯨と格闘し、鯨漁に智恵を絞り、捕獲した鯨から豊かな生活の実りを手に入れていたのかが手に取るようにわかってくる。

おりしも日本を舐めに舐めた米国の反捕鯨団体「シーシェバード」の蛮行が耳に入ってくる。それだけに、こういう貴重な歴史的記録は英語に訳して、世界に発信すべきである。鯨漁は日本の漁村の歴史そのものであって、それは豊穣な海からの贈り物だったのである。これが「虐殺」などであろうはずがない。
牛を殺して常食にする欧米人に鯨食をあれこれ言われる筋合いは全くない。

欧米人と違い日本人は牛を食べなかった。なぜか。牛は家族の一員だったからだ。牛は荷物を運び、田において鋤をこぐ。狼や熊など野生動物が襲撃してくれば飼い主を守ってくれた。家族の肉を食う馬鹿は日本にはいない。欧米人はこれをステーキと称して口にする。一体野蛮はどちらなのか。このあたりは西郷隆盛の文明論に重なり合っていて、圧倒的な説得力がある。

そうした歴史的事実を踏まえれば、「猿岩石」の鳩山総理が「私は鯨を食べない」と海外で発言し、白人帝国主義者たちに迎合したことは国恥ものである。

昔、私は新宿西口のしょんべん横丁の「太閤」という鯨かつ屋にあるこの店の人気メニュー「鯨定食」(+大汁・味噌汁がどんぶりで出てくるのです)が大好きだった。側の道端から漂う小便の匂いがなぜか食欲を亢進させたあのころ。

鯨はうまい。日本人なら鯨を食え!そして断固攘夷!シーシェバード撃滅あるのみ。コミック「おいしんぼ」のなかで海原雄山もそう激を飛ばしているではないか。

宮本常一のこの本を読みながら、しみじみと実感せざるを得なかったこと。国際化という美名のもとで、日本人は一体どこまで自国の誇るべき文化と歴史を捨てようというのだろうか。鳩山よ、いまこそ民族の財産・宮本常一先生の著作を心して読むがいい。妻の幸も同様である。


(4)ちくま日本文学・宮本常一(筑摩書房)

宮本氏の著作は多い。だがそのなかでも私の一番のお勧めがこれである。
なぜか。石牟礼道子さんがあとがき(「山川の招命」)を書いているからである。
これが超お得なのだ。久しぶりに心をゆすぶられた。彼女の「ことば」には本物だけがもつ圧倒的な力がある。すごい人だ。

辻本清美や香山リカたち「サヨク」と称するメディア界の浮浪芸者たちは単なるバカである。
だが、本物の左翼(石牟礼さんは認めないはずだ)には深く学ぶべきである。
私は竹内好からアジア主義の最良の遺産を、そして石牟礼道子からは前近代の共同体に存在していた豊穣な民衆の世界を学んだ。それは感謝してもしきれない知的な財産としていまも私のなかにある。

とここまで書いて、時間がない。まだ書く。次回を待たれよ。本格的にやる。

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