岐路に立つ金正恩~北朝鮮の路線闘争、終焉せず

6月12日、ショーとしての米朝首脳会談が行われる。メディアは絵になる画像を欲しがり、ワイドショーはお祭り騒ぎになるだろう。

今日は6月4日。1989年のこの日、中華人民共和国首都北京で政権の腐敗に抗議する無抵抗の市民に解放軍が発砲を繰り返し、これを鎮圧した。

世界はこの暴挙に怒った。それは確かにそうなのだが、中国政府から「老朋友」の敬称をつけて呼ばれる米国のキッシンジャー元米国国務長官は米国NBCテレビで次のようにコメントしている。

「テレビに映る映像からはその背後にある共産党内部の権力闘争という本質は見えない」。

私は世界中から巻き起こる圧倒的な共産党の暴力を糾弾する声のなか、キッシンジャーのこの発言にある共感を覚えていた。

事件の背後にあったのは趙紫陽総書記の進める政治・経済改革に危機感を深める李鵬首相らスターリン主義的体擁護派との路線闘争だったからである。
最初に党内矛盾が存在し、それがピークに達したとき、軍の戦車によるデモ隊への突撃が現実化した。話の順番はこうである。

この事件に触れているのは単に今日が6・4天安門記念日だからではない。中国における権力闘争と同じように北朝鮮においても内外路線をめぐる指導部内の対立と不協和が公然と表面化しているからだ。

4月、金委員長は核開発と経済建設の並進路線から経済の開放改革にシフトすると一方的に宣言した。「一方的」に、しかも「突如」として、だ。労働党内で開放路線の是非が十分に論議された形跡はない。
金委員長のトップダウンの決定である。

金の打ち出した路線は中国でいえば鄧小平路線である。だが鄧小平路線は「反米世界革命論」に立つ極左派・林彪の粛清を経て初めて現実性を持つことができたのである。

中国と北朝鮮の決定的な違いがここにある。「開放」に向かおうとする金委員長下の北朝鮮にはいまもなお人民軍という北朝鮮の「林彪」が排除されることもなく、影響力を誇っている。彼らが「核の全面的な放棄」に賛同するわけがない。

1972年、林彪のいない中国をニクソン大統領は初めて訪問し、歓迎された。
2018年シンガポール。北の若き指導者・金正恩はまともな政策転換の準備もなく、慌ただしく習近平とトランプの前で「鄧小平」を演じようとしている。人民軍は納得しているのだろうか。実に危うい。

メディアが警告すべきは「林彪」のいる北朝鮮の危うい未来図である。

2018年6月4日
青木直人

 

NLCでは一貫して北朝鮮の内在するリクスについてレポートを続けています。
関心のある方はぜひご購読を。