6年目のお礼

早いもので2009年(平成21年)に創刊した「ニューズレター・チャイナ」(NLC)も今月で6年目を迎えることができました。10年を一区切りとすれば、折り返し地点を通過したわけで、アッという間の5年間でもありました。

創刊時、こうした独立系メディアを立ち上げたいと考えた理由はマスコミの報道、ネット情報のいずれにも、一長一短を感じていたからでした。

マスコミ報道の欠点。それはスポンサーへの財政的依存と「マス」を想定した情報の発信スタイルにあります。

なかでも問題は前者の広告企業の意向に反した報道は相当困難であるという制約性です。

例えば名前を挙げて恐縮ですが、テレビ東京の夜の「WBS」(ワールド・ビジネス・サテライト)。サラリーマンの視聴者も多い経済番組ですが、WBSはこれまで中国経済について甘口の報道が多く、最近も「中国経済がおかしくなった」とは言いながら、そこからさらに踏み込んで、では、その結果、対中国依存度の高い日本のトップ企業の業績は今度どうなるのか、といった突っ込んだ内容に乏しいと言う印象があるのです。

ですが、こうした疑問も番組の広告主を見れば了解できます。トヨタ、ダイハツなど自動車メーカーを筆頭に、エプソン(全製品のほぼ半分は中国で生産)、ユニクロ(上海、広州に地域最大店舗)、イオン、(上海浦東マンション建設の)三井不動産など、いずれも「中国関連株」と呼ばれる中国依存度の高いトップ企業ばかりが顔をそろえます。

これで、これから本格化する中国市場での企業淘汰と続出するチャイナリスクを具体的にレポートできるものなのかどうか。間違いなく、そうした報道はスポンサー企業にとってプラスになるものではないからです。なによりも株価にはマイナスに作用するでしょう。

松本清張の小説「空白の意匠」。あるローカル紙に掲載された医療ミス報道(誤報だった)がスポンサーの大手薬品会社ばかりか、新聞広告掲載の生殺与奪の権を握っている広告代理店を怒らせ、最後は広告部長が辞表を出すことで事態が収拾されたという話のことです。

清張は小説のなかで、広告部員にこのように語らせています。

「編集の奴はこっちのことは少しも考えない。(スポーサーが)むくれて、うちに出稿してくれなくなったら、どんなことになるのか、編集の連中はちっとも知ってはいない」。

「何しろ、新聞は購読料だけで経営できると思っている奴がいるんですからね」。

小説が書かれたのは昭和34年(1959年)。もう半世紀も前のことです、しかし現在においても、広告企業と新聞・テレビ・雑誌などメディアのこうした関係にはなにも本質的な変化はありません。むしろ編集サイドの従属性は不景気による広告費の縮小(ネットに流れている)でより深刻化しているのが現状です。

言論の自由などというものが超現実的に存在しているわけがない。それは大手メディアに内在する企業・資本の論理を見ようとしない空想の産物にすぎません。例えば消費税問題。

紙面では読者に対して消費税反対の社説を紹介しながら、他方で政府に対して露骨に軽減税率をお願いするというところにそうした本質が現れています。

では、そんなマスコミを「マスゴミ」と嘲笑するネット言論はどうなのか。例外はあるものの、その多くは匿名に隠れた正体不明なものばかり。発信サイドには最低限でも個人の属性(本名、経歴、プロなら著作、講演歴)の明記が求められ、そうしてこそ初めて発信した情報について最低限の責任をとることが可能になるのです。

誰が書いたのか分かりもしない「情報」が氾濫し、その内容を吟味されないまま、偏見や思い込みが想像以上に広がっている。

「反知性主義」としか言いようのない知的劣化も進む一方です。

ネット社会の抱える問題点として、いくらアクセス数が増えようと、それが即、発信者側の収入に結びつくわけではないことも挙げられます。仮にあったとしても微々たるもの。

さらに、出版物のデフレ化(定価の値下がり、初版部数の激減)は深刻化し、講演料も大幅にダウン、テレビ出演料も上がることはないとなれば、業界人の生活環境も悪化するばかり。

こうした現実が従来型の情報発信者のスタイルの見直しを迫っています。もうこうした流れが好転する可能性はないでしょう。

NLCをスタートさせる際に、考えたのはマスコミ媒体という「中間項」を排除して、情報を毎回、直接読者に伝えるという「情報の産地直送」スタイルでした。当然、情報にはコストがかかっている以上、無料はありえません。

あれから5年。読者の側が切実に求めている情報ならそれは十分商品になり、ビジネスとして成り立ちうるという実感でした。

この間、NLCは、「池田大作創価学会名誉会長と中国の関係」、「中国経済の構造的問題と失速」、「苦闘する日本企業の実態(全て実名)」、さらに「対立と協調の関係にある米中両国の現実と人脈」、「北朝鮮の張沢成国防委員会副委員長粛清と中国の影」などのインサイドレポートとその背景などを記事にし、さらに昨年は11月に開催された日中首脳会談が実現するとの記事を8月の段階で配信しました。

タイトルを見ていただければ、お分かりのように、いずれも多くの方が関心をもちながら、なかなかメディアが取り上げないテーマばかりです。それはNLCが「マス」(大多数)を読者に想定していないから。必要な人が購読する媒体でありたいのです。

2012年の尖閣国有化以後、中国事業に関わる企業関係者からの申し込みが増えました。チャイナリスクが実感されてきているためでしょう。にも関わらず、先程も触れましたが、メディアの多くはスポンサーとの関係で、具体的なリスクを踏み込んで伝えようとはしていない。例外的に一部の雑誌系メディアが奮闘しているだけ。これではいったいなにを参考にしたらいいのか。

NLCは月に4回配信するレポート以外に、ほぼ月に1回、非会員の一般の方も対象にした講演も行っています。こちらももう50回近くを数えています。講演のエッセンスはユーチューブなどにアップしている動画を参考にしてください。

講演内容を撮影編集した内容はDVDにして販売しています。ここでも感じるのは売れ行きは金額ではなく、講演の内容と質次第だということ。

また、会員向けに月1回送りしている「NLC通信」では身辺雑記や、推薦本、さらに業界の内幕話を取り上げています。

各雑誌の原稿料一覧は読者である編集者の方々からも大好評でした。

「通信」ではNLCでは触れなかった情勢の解説も行っています。

昨年は安倍政権の動向を中心に、総理は消費増税に踏み切る、靖国参拝はしない、TPPにも参加表明する、また「尖閣での漁業行為も許さないであろう」として、「保守」のなかにある根強い安倍幻想に?を呈することができました。

さて長い話はそろそろこれで終わりです。

結論から言えば、今年から今までなら封印されてきた日本企業の中国ビジネスの粉飾内容が問題になり、遅かれ早かれ、そうした事実が表面化するでしょう。中国における勝ち組負け組の色分けはシビアです。

その結果、負け組企業の株価は下落する。そして、その段階で、初めて株主は自分が保有する企業の真の実態を知ることになる。中国の液晶販売で躓いたシャープのように、です。

これではいくらなんでもひどすぎる。ですが、現状では間違いなくそうなる。

「白猫だろうが、黒猫だろうが、ねずみをとる猫がいい猫」であるように、左右のイデオロギーではなく、正確なインテリジェンスが切実に求められています。

最後に。
お疲れ様でした。
ここまで読んできて、NLCという媒体にいささかでも興味を持たれた方々には、ぜひ購読をお願いしたいと思います。

3月17日
青木直人
山本孝司

 

 

■ニューズレター・チャイナの詳細・お申し込みは、
http://aoki.trycomp.com/NL/ から。